■海神ポセイドン■

物語中では主人公トリトンの宿敵として登場するポセイドンだが、神話ではすべての海と地震の神である。
 『海のトリトン』
の中でも「ポセイドンは地下のマグマを目覚めさせる力があるのです」(ドリテア談)というセリフが示すように、よく地震や火山の爆発をおこして、トリトンたちを苦しめた。

 ギリシア神話では、最高神ゼウスの兄にあたる。
多くの逸話があるが、女神アテナとアテナイの守護神の座をめぐって争った話は有名である。アテナイ人の為にポセイドンは塩水の泉をわかせ、アテナはオリーブの木を送り、結局アテナイ人はオリーブの木を与えてくれたアテナを守護神に選ぶ。
 
 余談になるが、1972年(偶然『海のトリトン』の放映年)に公開され、大ヒットした『ポセイドン・アドベンチャー』という映画で、豪華客船ポセイドン号は、ギリシャのアテネに向かう途中に嵐に遭い、転覆した。生き残った人々の脱出劇は感動的で、後に似たようなタイプの危機脱出型映画が多く作られるきっかけとなった。

 神話ではゼウスと同様、好色なことでしられ、たくさんの子供がいる。主な子供にアンフィトリテとの間のトリトンとロデー(太陽神ヘリオスの妻となった)をはじめ、ポリフェモス、天馬ペガサス、駿馬アレイオン、クリュサオルなど、怪人、怪物が目立つ。

 元々は「ポセイダーオン」と発音したらしい。その意味は大地母神の夫である。(「ダーの夫」の意味:ダー=ゲーと同義で大地母神「ガイア」の意味である)
ギリシア神話では大地の女神デメテルと馬の姿で交わり、駿馬アレイオン(アリオン)が生まれたという。
ポセイドンは馬の神としても知られてる。また、メデューサとの間にも翼を持つ名馬ペガサスと怪力の巨人クリュサオルが生まれていることからも馬と関係が深い。メデューサは元々は大地母神である。
 このようなことから、元々は海の神ではなかったと思われる。
しかしホメロスが活躍した時代(紀元前8世紀頃)にはすでに海神になっていたらしい。学者によれば、ギリシア人がイオニア地方に植民した以後のようだ。
 元来ギリシア人は海洋民族ではなかったようで、海のない地方に住んでいたらしい。そのころに形成された牧畜中心の考え方が反映され、ポセイドンは海の神でありながら、大地の神のような性格を持つ。
ゼウスが主神となるまではポセイドンがゼウスの地位に居たという見方もあり、何かと注目される神である。

 そして、ポセイドンが海の神になったのは「海の女神」アンフィトリテとの結婚により、海神ネレウスの「婿養子」になったためといいううまい説明もある。ここにも民族の移動や征服、変化により、神話の変遷や改編がうかがえて興味深い。

 またプラトンの著書で有名なアトランティス伝説ではポセイドンはアトランティス大陸の支配者で、自分の息子アトラスをその支配者においたことから大陸の名を「アトランティス」としたという。
 アトランティス大陸はいまだに実在が確定されず、根拠となった場所もクレタ説やエジプト説、マヤ説など様々だが、真偽のほどは未だ定かでない。だが、「伝説の大陸の支配者」としてポセイドン神の名がでるところに、かつてのこの神がもっていた「地位」が伺えておもしろい。
 アトランティス伝説はかつてポセイドンを主神とする民族の「願望」なのかもしれない。

 地震を起こし乱暴なことから、よく日本神話のスサノオと比較される。
スサノオにも馬にまつわる伝説がある。アマテラスの機織りの館に死んだ馬を投げ入れ、巫女を傷つけて死なせた。そのことがきっかけで、アマテラスが天の岩戸にひきこもり、世界は闇につつまれたという。
 また、スサノオを海神として祭る神社もあり、海との関連が深い。

 『海のトリトン』では不気味な神像として登場する。耳まで避けた口や牙のある歯、そして片手に長剣を持つところなどは不動明王のようである。これも羽根氏のオリジナルデザインで非常に印象深く、『海のトリトン』の映像を重厚に盛り上げる一つの要素となっている。
 (実はデザインの元になった映画があったようなのだが、詳しいデータがわからず、紹介できない。見た人の話によると、ポセイドン像にそっくりの像が映っていたという。)


 最終話で正体が明らかになる。この像はプラスのオリハルコンで出来た像で声の主はどうも、ポセイドン族の長老らしい。
 ポセイドンは『海のトリトン』の世界でも、海の支配者でありながら、同時にアトランティス大陸の支配者でもあった。