■メドゥーサ■

 英雄ペルセウスによって倒されたゴルゴン3姉妹の末娘。他の姉妹は不死身だったがメドゥーサだけが不死身でなかったという。メデゥーサは元々は美しい美貌と髪を持つ少女だったが、自分の髪を自慢したことで、アテナの不興をかい、髪を蛇にかえられ、その顔を見た者は恐怖のあまり石になってしまうという恐ろしい顔に変えられてしまった。
 この髪の毛が蛇、顔を見ると石になる、という部分が『海のトリトン』のドリテアの、のびてトリトンを締め付ける髪と、何でも石にするムチの設定に生かされている。また、2話にフィンのセリフに「ゴルゴの手下が・・・!」という部分があり、ドリテア=メドゥーサ(ゴルゴン姉妹)のイメージで設定されていた可能性が高い。

 ドリテアの名は、原作の武骨丸の女船長(正体はポセイドンの娘)、ドロテアに由来する。
 またメドゥーサを倒したペルセウス自身が捨て子で、母とともに漂流し、漁師に拾い上げられ育てられている。この部分の類似も興味深い。漁師に育てられた英雄は少ない。

 ペルセウスはゼウスの子である。
 ある時アクシリアス王が、娘ダナエの産む子どもにそなたは殺されるだろう、という予言をきいた。王はダナエを青銅の島に閉じこめ、人目に触れないようにした。だが、ダナエの美しさにひかれたゼウスが黄金の雨となって彼女のもとを訪れ、生まれたのがペルセウスである。王は生まれたペルセウスとダナエをともに箱に入れて海に流した。

 このダナエが未婚のまま、神の意志により懐胎するというモチーフは、後のキリスト教におけるマリアの処女懐胎につながる。ダナエはもともとこの地方の女神とも考えられ、ゼウスと最高神とする民族の侵入により、地元の神々との結びつきがこのような神話に反映されたものと思われる。

 この流された母子を救ったのが、セリボス島の正直な漁師デュクテスである。彼は母子を丁重に扱い、ペルセウスはたくましい若者に成長する。しかし、いつまでも若々しく美しいダナエがほしくなった島の王ポリデュクテス(実はデュクテスの兄)はペルセウスが邪魔になり、追い払う口実にメデューサ退治を命じる。彼は女神アテナに相談し、空を飛ぶサンダルと、姿を隠す兜(帽子)を借り、メデューサのいる場所へと向かう。

 ペルセウスは盾にメドゥーサの顔を写して、直接見ないようにして首を切り落とし退治した。その切り口の血から生まれたのが天馬ペガサスと、巨人クリュサオルだという。実はメドゥーサは以前ポセイドンと交わった事があり、ペガサスとクリュサオルはその時の子どもだという。

  彼はその帰り、エチオピアと言うところを通りかかり、海辺の岩に縛り付けられている美しい女性を見つける。(現代のエチオピアとはちがう国とされる)彼女はエチオピアの王女アンドロメダで、母のカシオペアが娘の器量よしを自慢したためにポセイドン神の怒りをかい、龍の生け贄にされるのだという。彼は王女の父ケフェウスに、王女を助けたら彼女を妻にするという約束を取り付け、持っていたメデューサの首を龍に突きつけ岩にして、龍を退治する。(一説によると、龍ではなく、化けくじらだともいう。これはクジラ座となって天に昇っている。)
 そして、ペルセウスをねたみ、彼を殺そうとした元婚約者をその首で岩にしてしまう。 その婚約者はアンドロメダが生け贄になるとき、逃げ出した臆病者だった。
 ペルセウスは故郷に帰り、母に言い寄っていた王ポリデュクテスをメデューサの首の力で石にして、母を助け出す。そして女神アテナにメドゥーサの首を献上し、アテナはその盾にメドゥーサの首を貼り付けた。

 この話は後日談がある。ペルセウスはラリッサという町で開かれた競技大会に参加する。彼が円盤を投げたとき、たまたま見物にきていた彼の実祖父アクシリアス王の額に当たってしまい、王は絶命する。こうして予言は実現してしまうのである。(異伝によると、王はペルセウスの噂をききつけ、母国を逃げ出してラリッサに忍んできたという。だとすればまことに皮肉である。)

 メデューサはもともとは大地母神と考えられる。
古いギリシアの遺跡の地下に、メデューサの首をかたどったものを逆さまにして礎石にしているものが発見されることがある。彼女は地下を支配する女神であったとされる。
 その大地母神を倒す英雄伝説の話は、後にこの地方に侵入した神が、地元の民族を征服していく様子が反映されたものととれる。
 今伝わっているメデューサのイメージは、世にも恐ろしい蛇の頭をした女の姿だが、かつてはその地方を支配する絶世の美女神であったかもしれない。

 『海のトリトン』でのドリテアは、トリトンと海の墓場で対決し、トリトンのオリハルコンの剣の前に破れる。最後はトリトン族の秘密を少しばらし、海底火山に身を投げる。潔いポセイドン族の女戦士として描かれていた。



  

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