トリトンへ片想い
その1


■原作のこと■
 『海のトリトン』という作品を1972年のTV放映で初めて知った、という方が多いと思います。
また、この数年後の再放送で見たと言う人も数多く、「海のトリトン」といえばTVアニメの方を思い起こす方が圧倒的だと思います。
 しかし、私の場合、たまたま偶然に、新聞連載されていた手塚治虫先生の漫画を読んでいて、マンガの『青いトリトン』として、知るチャンスに恵まれました。TV放映の3年ほど前でした。
 自宅が引っ越し、その引っ越し先の新聞がサンケイ新聞だったのです。
実は親類に読売新聞関係者がおり、親戚縁者ほとんどが読売なのになぜ我が家だけサンケイ新聞を取ったのか、と母に聞くと、「引っ越しして最初に来た新聞屋さんがサンケイだったから」だとか。
 こだわりのない親に育ててもらってヨカッタと思いました。
偶然というのはおもしろいものです。

 当時、小学校低学年だった自分は、あ、新聞に漫画が載ってる、と4コマ漫画でも見るのりでなんとなく見ていました。あまり熱心に読んでいたわけではないのでストーリーも途切れ気味で、わくわくしながら見たという印象がないのです。(すみません)
  でも手塚治虫さんの名前は、幼いながらも『鉄腕アトム』や『ジャングル大帝』の作者として認識しており、
有名な人の作品、という意識はありました。
 途中からだったので、初めの和也少年が出てくるあたりは知りませんでした。
(後に単行本になったときに知りました)
印象にのこっているのは、ピピ子が陸に人間につかまり、原作トリトンが助けに行くと、美しい大人の人魚に変身している部分でした。好き、キライというより、「手塚治虫の作品」と言う印象でみていました。
 そのうち話がクライマックスになり、原作トリトンが死んでしまい、こりゃ、もうすぐ終わりだなと思ったとき、
最終回のページのはじっこに、「長い間ご愛読ありがとうございました。この作品は『海のトリトン』として来年
4月からTV放映されますのでお楽しみに」(正確ではありません)というような文章がのりました。

 で、翌年お正月からはじまった新聞の連載はなんと「怪傑ライオン丸」の漫画化でした。まさか「トリトン」の裏番組の連載がはじまろうとは・・・。漫画はたしかうしおそうじさんでした。でも時代物が余り好きでなかった自分には印象が薄く、余り覚えていませんでした。
(同じ時間帯に放送される番組の漫画ををつづけて載せるなんて・・・。よく考えればサンケイ新聞はフジ・サンケイ・グループなのだから、フジTV系で放映する「ライオン丸」を応援して当然なのですが。その辺の経緯がわかりません)

 単純な私は、「海のトリトン」はこの原作のままの絵柄とストーリーで放映されるものと思っていました。
それに小学生だった私は日常にまぎれていて、余り深く考えていませんでした。
 でも実際にはじまったTVの『海のトリトン』は、まるで原作と違っていました。


(※原作トリトンのTVトリトンとの違いの詳細は「COMICS」のコーナーで説明していますのでそちらをご覧下さい)

■新聞予告と広告・・・大きな絵にビックリ■

 放映の数日前(日曜だったと思います)に、新聞の今週の新番組というコーナーで『海のトリトン』が紹介されてました。
それには、オリハルコンの剣(その当時はその名を知らなかった)を胸元にもち、拳を握りしめて勇敢に立ち向かうようなトリトン少年の写真(白黒)が掲載され、文面は「海の王子トリトン少年が悪者ポセイドンと戦う」と書かれてありました。(不正確です)その絵は原作のトリトンよりは幼かったのですが、「かっこいい」という印象がありました。

 でもまだ私の中には原作のトリトンのイメージが根強く残っていたので、この少年が大きくなったら、あの原作のトリトンになるのかな、と漠然と思っていました。ポセイドンも原作のイメージで想像していました。

 そして放映当日(1972年4月1日)、夕刊の番組欄に2/3以上のスペースをとって『海のトリトン』の絵がのりました。(左ページの「資料:新聞記事」をご参照下さい)

 クラウンレコードのジャケットにもなった、トリトンがルカーにのって、デモラーをやっつけようとしていて、ピピが後ろにくっついているあの有名な絵です。よくポスターにもなっています。ぬり絵の形になっていて、朝日放送の新番組を紹介していました。(覚えているのは、「シークレット部隊」→「ザ・ガードマン」のあと番組、「君たちは魚だ」→「お荷物小荷物・カムイ編」の後番組など)
  その絵が放映直前の自分の「海のトリトン」のイメージになりました。



■ 運命のエンディング・・・初めての似顔絵 ■

で、放映時間。
いきなり、海の実写の映像が流れ、のんびりした音楽が・・・(南こうせつとかぐや姫の「海のトリトン」です)。一瞬チャンネルを間違えたのかと思いました。でも白い文字で「海のトリトン」と出てきます。続いて見ているとTシャツ姿の少年がなにやら叫んでるし、原作にはない一平じいさんというのが出てくるし・・・。まだまだ原作が頭にあった私は少々混乱しました。それでも緊迫感のあるストーリーは着々と進み、トリトンが衣装を付け、海に旅立ちます。とまどいながらも途中から新聞連載を見ていた自分は、これが「海のトリトン」の始まりなんだと納得し、いつの間にか引き込まれていました。やっぱり秘密を知ったトリトンが岬で泣きくずれるのがとっても印象に残りました。満月に向かって旅立つラストシーンは、そのバックの海の効果音とともに自分の「海のトリトン」の代表イメージとなりました。
 あんなによく泣く主人公は初めてでした。チャンネルを変えようとした私の耳にとつぜん、ジャジャン!という響きの良い音楽と、トリトンがルカーに乗って高々とジャンプしてる映像が飛び込んできました。
「GOGOトリトン」のエンディングでした。

次々と音楽に乗って現れる十数枚の絵はたちまち私を魅了しました。
これが「海のトリトン」の世界だ!!と主張しているようなすごい絵でした。
まだTVに登場しないピピらしい人魚のかわいい女の子もでてきて、トリトンと仲良さそうにしています。
ますます私は次週が楽しみになりました。
 この時点で私の中の「海のトリトン」は原作を離れて行きました。 
そしてもう一つ私の人生を変えたことが起こりました。

 生まれて初めて、自発的に、TVアニメの似顔絵を描き始めたのです。(当時11歳と5ヶ月)

 その新聞に載ったトリトンをトレスしたのが最初のトリトンの似顔絵でした。(もう残っていません)
元々絵を描くのはキライではありませんでしたが、似顔絵は得意ではありませんでした。
アトムもレオもサファイアもみんな好きでしたが「描く」という行動に移らなかったのは不思議です。 
「海のトリトン」の絵柄にはなにか、「一線を越える」魔力があるのかもしれません。

 もしかしたら、手塚治虫原作でありながら、キャラクターデザインが羽根章悦さんという東映系の人の絵だったからかもしれません。知らないながらも彼が手がけたデザインの「魔法使いサリー」や 「アタックNo.1」などはよくみていました。 そういえばトリトンの顔って女の子の顔ですよね。どっちかというと。そういう中性的な所にも憧れたのかもしれません。 その日から自分の描く絵はトリトン一色になり、現在に至っています。

 

※このエンディングは本放送当時の第一話〜六話のみ流れた物です。
(一部再放送で流れたとの情報がありますが詳細不明。)

ダイナミックな構図と力強い線で表現された傑作です。何年か前に出されたLD(レーザーディスク)の完全版のみ収録。
LDの解説書にも写真が掲載されています。後に発売されたDVDには収録されていません。
本放送から継続して見ている方しか記憶がなく、それも最初の数話なので
FCに入会している方の中にも記憶のない人が多く、おおいに悲しんだものです。

この絵は、幻になってしまったエンディングが見たい、見たい、とさわぐ私のため、FCの方が貸して下さった写真を参照しました。
  当時はカラーコピーのない時代だったので必死に鉛筆でそっくりに拡大して映しました。
  その写真はあるフィルム上映をした主催者からかりたフィルムから起こした写真だったそうで、映像も鮮明でした。
  このフィルム、現在行方不明だそうでとても残念です。
  LDに収録された画像はU−MATICのビデオからなので画像が濁ってました。