●原作トリトンの世界
●富野本&その他の資料

こっちは裏表紙。渋い顔の富野氏       

●参考資料●「富野由悠季全仕事」(キネマ旬報社)

 どの取材記事にも当時は虫プロ倒産直前の慌ただしい時期(昭和48年倒産)の事情が説明され、ゆったりと作品を作る余裕がなかったようで、手塚氏の関わりがTV版トリトンにないのは仕方のないように思える。
  また、版権が西崎義展氏にわたり、手塚さんが作りたくても作れない状況があったようである。(その辺の詳しい事情がよくわからない)

 LDのブックレットで、富野氏が「もう少し手塚先生との話し合いがあればもう少しちがった形になっていたかもしれない」と言っておられる。

 また手塚氏も「自由にしてください」とある程度スタッフの力量に任せていた面もあるという。

 しかし、手塚氏はTV版のキャラクターデザイナーの羽根氏の絵がどうしても気にいらなかったようで「ずいぶん劇画調になった」と不満だったらしい。
  当時は脱虫プロの気運が強く手塚色を排除しようとした意図もあったという。
 富野氏によれば、手塚氏の絵はディズニーのコピーにしか見えず、このキャラクターでは当時の子どもが付いてこないと判断したという。手塚氏も自身の絵が時代の波におされ、主流でないのを知りつつ、もがいていたように思う。

  また、TV版へのコメントが限られているのも、元の作品世界は手塚氏のものなのに、別の人の手によって別の作品になってしまった「人気作品」に複雑な思いがあったのではないだろうか。
 手塚氏は、彼独自の「海のトリトン」の世界を作りたかったのかも知れない。

 

優しい笑顔の裏には強烈なライバル意識が?

●手塚治虫物語(朝日新聞社)
この本には手塚氏原作のアニメの全データがあり、「海のトリトン」の手塚氏の関与は「原作」だけとなっている。

   結果的に時代は一回りし、手塚氏の絵は普遍的なものとして認識されているが、当時の制作状況に限っていえば、やはり「時代の流れ」というものも考慮しなくてはならないだろう。

 あときわめて個人的見解だが、「海のトリトン」と似たような経緯の作品に「どろろ」がある。
この作品もパイロットフィルムがあり、その主人公百鬼丸のデザインは手塚氏の原作漫画に近いこどもっぽいキャラクターだった。
 しかし当時の白土三平氏の「忍者武芸帳」などの流行による劇画ブームの影響を受け、実際にTVで放映されたのは北野英明氏(後漫画家になる)の描く大人っぽい百鬼丸である 。
 当然、ニヒルでアダルトなムードが加わり、物語の暗さも加わって、年齢の高いファンを獲得することになる。だが当時は皮肉にも視聴率が上がらず、途中で「どろろと百鬼丸」とタイトル変更がされたりしている。
 「海のトリトン」の制作担当プロデューサーの黒川慶二郎氏が参加している。
 余談だが、どろろの母を演じている声優さんはルカー役の北浜晴子さんである。

 「ジャングル大帝」(旧作)も原作は3世代にまたがる壮大な大河ドラマだが、TV化されたものをみると かなり細切れなエピソードの寄せ集めのようにも見える。これは海外に売り込むため、一話完結でも見られるような構成にしたからのようだ。この作品の一番の価値はその壮麗なオープニングにあるだろう。
 後の主人公レオが大人になり、ヒゲオヤジの命を助けるために死んでいく原作バージョンの映像化がなされたが、どうしてもインパクトが薄いのは自分の個人的感想だけだろうか。

 同様に「リボンの騎士」も漫画版とTV版ではかなり違いがみられ、特にゴールドランドの王子フランツのデザインがまるでちがっている。 TV版は「バンパイヤ」のロックににている。原作に登場する魔女も TV版では「魔王」である。(娘に甘いところは一緒)
 私は放映当時、幼稚園程度だったが、親に買ってもらった漫画本(「なかよし」版です。全集に収録されています)とTVの絵がかなりちがうのに首をかしげたものだった。(それでも喜んでいたが)
 「W3(ワンダースリー)」も放映と漫画連載が同時進行というすごいスケジュールだったらしいが、ラストがTVと漫画版ではちがっている。(詳細は記憶があいまい)

 TVと漫画がちがうのは、何も「海のトリトン」だけではないのだ。
 
 TVにはTVの表現手法があり、マンガをそのまま映像化するのは、あまりにも芸がない。漫画とイメージがちがう、といって怒るのは短絡的すぎるかもしれない。
 最近のアニメ制作は冒険をしなくなり、「海のトリトン」のような大胆な改変をする例にお目にかからない。それはそれでまた寂しい気もする。
 
  ヒマがあれば手塚氏の原作漫画とTV化されたものを見比べてみるのも一興だと思う。



★このページは、以前所属していた「奈良トリトン同盟」で
手塚治虫追悼特集を組んだときの原稿を元に再構成いたしました。


資料提供協力:ちあきさん/ぼさつさん/ひろこさん/(Thank You!)

 

●上カットは、文庫本の広告にのっていた手塚氏晩年のトリトン。
TVのキャラの特徴が見られる。

●その他参考資料●

●「海のトリトンの彼方に」
(古澤由子著・風塵社刊)

●LD−BOXに付いていたパンフレットのインタビュー

●昔のTFC東京支部での富野氏へのインタビュー記事(「勇者ライディーン」制作当時に取材)

●「キャラクター魂」の記事

●DVDについていたブックレットの中の富野氏のインタビュー記事

●「教養としてのまんが・アニメ」
(大塚英志+ササキバラ・ゴウ・講談社現代新書/2001)

●手塚治虫アニメ選集
「ジャングル大帝」
「リボンの騎士」
「どろろ」
「悟空の大冒険」
(少年画報社発行)

●「一億人の手塚治虫」
(JICC出版局)
 
●その他