●原作「トリトン」の世界●
その3:原作のストーリーについて
 以下、秋田書店発行豪華愛蔵版、同文庫版(全三巻)または講談社発行の手塚治虫全集の「海のトリトン」 (全四巻)からのストーリーをご説明します。  なぜなら、最初に発行された秋田書店サンデーコミックスの内容はかなり割愛、変更がなされており、新聞連載時とはラストの展開も大幅にちがうからです。 理由はよくわかりませんが、別バージョンが存在する、ということだけ記憶にとどめてください。 (要約が出来ず、上手くまとまっていません。もっと短くしたいです;;)  

●第一巻

冒頭は猪ノ鼻岬から始まります。
ある日、岬の下に不思議な明かりがともるのを見た和也少年は、誰も危険で近づかない岬におりて確かめてみます。すると、そこにはコンブで敷き詰めたふとんの上に、一人の赤ん坊が座っていました。和也はその子を連れて村に戻り、父と母に相談し、その日からその子は和也の弟として矢崎家の家族として迎え入れられます。
 でも和也の祖母のオトヨはその赤ん坊を嫌います。その時、村は激しい地震と津波に襲われ、村は壊され、和也の父も犠牲になります。
  和也はオトヨからなぜ、赤ん坊を捨てろというのか訳を聞きます。実はオトヨがまだ娘だったころ、海から青い髪をした不思議な傷ついた若者が流れ着き、彼女は手当てして面倒をみます。しかし、まもなく村は地震に襲われ、青年は地割れに飛び込んで死んでしまいます。それっきり地震はおさまり、海の荒れるのもおさまりました。オトヨは彼から、自分の様な者が流れ着いても決してかかわるな、と忠告されます。彼は「トリトン」と名乗りました。
  父を亡くした和也とその母はその赤ん坊をつれて上京します。不思議な話を聞いた和也はその子を「トリトン」と名づけようといいます。
 和也は東京で働き出しますが、毎日思うようにいかず次第にイライラが募ってきます。それと同時に拾ったトリトンの身に変化がおこり、さっきまで乳児だったトリトンが5〜6歳の子供に成長しています。どうやら、この子の一族は一時に成長するらしいのです。不思議を感じながらも和也はいつかこの子は海に帰っていくだろう、それがトリトンにとって幸せなのだ、と思います。
 和也の母も働きにでます。しかし、ある時サングラスの奇妙な男にトリトンを預けないか、と言う話をもちかけられますが、彼女は強い態度で拒みます。彼はトリトン族を狙っている宿敵ポセイドン族の手先のターリンでした。
 トリトンは古来からの泳法を会得している丹下老人から泳ぎの方法、戦い方などをならい、日に日にたくましく成長していきます。ある日、深く潜ったとき、金色のイルカのルカーに出会い「あなたはトリトン一族の忘れ形見です」と告げられます。まだ幼いトリトンにはその意味がよくわかりません。家に帰って母にたずねると、「あなたは海で授かった子なのよ」とうち明けられます。そしておそろしい地割れと奇妙な声がトリトンと和也の母の前でおこりトリトンをさそいますが、母は必死にトリトンをかばいます。東京の地下ではポセイドン族の娘の一人のヘプタポーダがトリトン族を警戒し、地震を起こしていたの です。
 和也は都会の冷たさに傷つき心がだんだんあれてきます。いっこうに増えない給料とだまされていたことに腹をたて、仕事を斡旋した男を刺し殺してしまいます。警察に追われる身となり、行き場のない和也をさそったのは六 蔵といういかにもいわくのありそうな船乗りでした。
 武骨丸という謎の船にのって働くことになった和也は、積み荷を全て海に捨てる船の秘密と女の様な奇妙な船長を探ろうとして、殺されかけます。実は船長はポセイドン王の娘で、武骨丸はポセイドンの要塞で働く人間を調達する船だったのです。和也は船長の手下の一本足の男に「トリトンはお尋ね者で、ポセイドン様の敵だ」と告げられます。そして 六蔵と共に、船ごとその基地から発進した謎の潜水艇に連れ去られます。ここで和也は行方不明となり、表舞台から姿を消します。

 一方、和也に拾われたトリトンは成長し、陸の人間でいう13歳になりました。それも普通に育つのでなくある日突然一気に成長するという方法で。 (私の印象では高校生ぐらいです)
ある日、トリトンは自分が拾われた洞窟に入っていきます。そこには大きな貝殻(ホラ貝ではない)がのこされており、それを耳にあてたトリトンは父のメッセージを聞きます。

 そこでは語られていたのはポセイドン族、トリトン族とともにムー帝国の人によって作られたとの歴史、女性は人魚の姿をしていること、ポセイドンとは敵対関係にあり、ポセイドン族が一方的にトリトン族を虐殺していることでした。決して裏切り者ではなく、正しいことを正しいと主張したためにポセイドンの恨みを買うことになったと告げていました。
 また同じトリトン族の人魚と出会い、ピピ子と名付けます。出会ったとき、まだピピ子は赤ん坊でした。彼女はウミツバメと一緒に暮らしていたので、人間の言葉がしゃべれず、トリトンは一生懸命言葉を教えます。

 自分のことを知ったトリトンはいつか海に帰ることを自覚しながらも陸で知識を得ることに集中します。そんな中、洋子と言う少女が泳ぎをおしえてほしい、と近づいてきます。
彼女は沖野財閥の娘で、父親への反抗心から心臓の持病があるのに、無理に泳ぎの練習をしているのです。彼女の家にはヘプタポーダという謎の女が出入りし、 ターリンの化けた運転手と親しげに話しています。ヘプタポーダはポセイドン王の娘で武骨丸の船長のドロテアの姉妹でした。

 トリトンはポセイドンが陸の財閥と取引していることを確認し、交渉に来たヘプタポーダを襲い、負傷させます。しかし命乞いするヘプタポーダに同情したトリトンは彼女を救い、自宅に連れ帰ります。 手当を受け、回復した彼女は本当は優しい心を持つトリトンに接するうち、ポセイドン族、トリトン族というだけで憎みあい、殺しあう現実に疑問をもちます。
 トリトンはヘプタポーダをポセイドンに返還する条件として、以前捕らえられた和也を引き渡すように交渉します。交渉の場所の海上で青年になった和也が現れますが、ポセイドンのために盲目になり口もきけない状態です。そして、ポセイドンの使者イボリロは交渉に来たトリトンをヘプタポーダに殺すように命令します。 しかし彼女はトリトンを殺せず、銃で自殺します。怒ったトリトンはヘプタポーダが死んだ銃で集まっていた怪物達をみんな殺してしまいます。その銃には「憎しみ」がこめられていたのです。
 トリトンと再会した和也は、今自分が母の元に戻ると迷惑になるから離れて暮らすと、トリトンと別れます。落ち込むトリトンを慰めるのは同族のトリトン族の人魚のピピ子でした。彼女はいつのまにか変身して、今は少女の人魚になっていました。

●第二巻
 トリトンは陸と海を行き来しながら、ポセイドンと戦います。しかしターリンはトリトンの宿敵ですが、同時に心臓の弱い洋子に薬を提供していたため、殺すに殺せず、トリトンは悩みます。
 一方沖洋子の父はトリトンを憎み、娘を誘拐した不良学生と決めつけ、トリトンのいる島に船を差し向けます。攻撃に驚いたピピ子が陸の人間に捕まってしまい、助けに来たトリトンが水槽をのぞくと、そこには美しい大人の人魚に変身したピピ子がいました。トリトンは引き取りに来た大学教授に自分たちは希少な種族であることを説明し、海に逃がすことを懇願します。トリトンの熱意に負けた教授達はピピ子を海に戻し、今後の協力を約束します。しかし水産庁の酒柱氏は、人魚をつかってもうけようとたくらみ、彼らを付けねらいます。
 トリトンは戦いで倒したドリッペという怪人から紹介された、大海亀のガノモスに会いに行きます。しかし、ガノモスにポセイドンと戦うことは全世界の人間を敵に回すことになると諭され、和解を進められます。とうてい受け入れられないトリトンは怒り、ポセイドン族を倒す手段を巡らせます。
 そんな中、トリトンの育ての母が生まれ故郷の漁村に帰るといいだし、トリトンもともに向かいます。その時、横暴な父に嫌気のさした洋子も連れて行きます。
 しかし、トリトンたちが村に戻ったとたん、海に異変が次々おこり、全てはトリトンのせいにされます。実はそれはドロテアの仕業で、海に猛毒をまいて村人を困らせ、トリトンがその元凶だと吹き込んだのでした。追いつめられた母はトリトンを殺 せと言われた、と泣きます。しかし、洋子はわざと母親にトリトンを刺すようにし向けます。トリトンは死んだ者とされ、村人たちの怒りも静まります。そして埋葬の後、洋子はターリンにもらった薬を使って、トリトンを生き返らたのです。その様子を見ていたドロテアは洋子を毒の海に投げ込みます。洋子はショックで心臓発作を起こし、事切れます。薬はトリトンを生き返らせるために全て使ってしまったのでした。
 悲しみと怒りに燃えたトリトンはドロテアを追いつめます。しかしとどめを刺したのはターリンでした。彼は洋子を愛していたのです。ドロテアは武骨丸とともに爆死します。
 トリトンは村にいられなくなり、育ての母と別れ、陸との縁を切ります。海では人魚のピピ子がトリトンを待っていました。しかし、トリトンは休む間もなく、イルカたちとともにポセイドンの要塞に直接乗り込み、戦いを挑みます。ポセイドン王は残忍でトリトンを追いつめますが、陸の人間の奴隷の六蔵に助けられます。そこで、代々のポセイドンは不死身だという事実を聞かされ、愕然とします。そして宿敵ターリンとの死闘の末、トリトンは見事にターリンを倒します。
 しかし、ポセイドンは34人目の子どもを得るために新しいお后を選ぶことになり、選ばれたのはなんとトリトン族のピピ子でした。 抵抗するピピ子でしたが、トリトンが死んだと聞かされ、ピピ子はトリトン族の血を残すためにポセイドンとの結婚を承諾します。

●第三巻
要塞に潜り込んだトリトンはピピ子がポセイドンのお后になると聞いて仰天します。そして裏切り者として彼女を殺す決心をしますが、心穏やかではありません。そのころ、陸人の奴隷達は結婚式で警備が手薄なのを利用して反乱を企てます。
 ピピ子は要塞に連れてこられ、偶然、イルカたちと再会します。そしてトリトンが生きていることを知り、自分の身代わりにウミワタの化けたピピ子を差し出します。そうとも知らずに子どもを作る装置に入ったポセイドンはウミワタとの子どもの怪物ゴーブを作ってしまいます。
 ゴーブは手当たり次第に何でも食い散らし、その廃液は猛毒で、生き物を溶かしてしまうのです。外海にでたゴーブは海を荒らし回り、困ったトリトンはポセイドンと手を組み、ゴーブを追いつめようとします。
 追撃に出たトリトンを「変身」の危機が襲います。トリトン族が一度に成長する時期が重なってしまったのです。トリトンは身体の自由がきかなくなり、ある島で休みます。その間にルカーがゴーブを追いつめ、なんとかやり過ごします。変身を終えたトリトンはゴーブを潮の引いた入り江に追い込み干上がらせ て、見事にやっつけます。
 しかし、いったん仲直りしたかにみせかけたポセイドンは陰でトリトンを欺いていました。 陸の人間を襲おうと計画を持ちかけ、断ったトリトンに嫌がらせをします。
 トリトンはピピ子と結婚し、七人の子どもが生まれます。(ピピ子は人魚のままです)なんとトリトン族は卵生だったのです。ショックを受けるトリトンですが、すくすく 育つ子ども達に色々教えようと、ヨットに乗せたりして細々と世話をします。
 ある島に遊びに来た時、娘の一人グリーンが原住民にさらわれます。トリトンは取り戻しに行きますが、銃で撃たれ倒れます。そこには日本の水産庁の酒柱氏がいて、言葉巧みにトリトンをだまし、グリーンを連れて逃げてしまいます。
 陰ではポセイドンが暗躍し、グリーンが人間に殺されたとだまされたトリトンは陸の人間に恨みを抱きます。そしてポセイドンにそそのかされ、洪水をおこし、東京の街を水浸しにします。ポセイドンはそんなトリトンを悪者に仕立て上げ、トリトンを捕まえればこの水を引かせるといって陸の人間の味方 を演じます。
 トリトンは陸人に追いつめられ、傷つきます。それを助けたのは六蔵でした。そこには兄の和也もいて、トリトンを罠にはめたポセイドンの正体を人間に知らせに行きます。
 トリトンは途中ポセイドンの司令官ミイラス将軍を倒し、ポセイドンの要塞にガノモスとともにつっこみます。ポセイドンは不死身なので、脱出用ロケットに誘い込み、ともに宇宙に打ち上げられ、永久に地上に降りてこないようにします。ポセイドンの要塞は粉々に爆発します。離ればなれになる直前、トリトンは長男のブルーに自分が帰らなかったら、お前が「トリトン」と名乗れ、と言い残して行ったのでした。
 残ったピピ子と子ども達は人間に追われ、甲良島に逃げ込みます。そこに人魚を追って水産庁の酒柱らがやってきますが、ブルーの機転をきかせた作戦で、やられます。
 そしてブルーは海はトリトン族や魚たちのもの、陸の人間は陸に帰れとつげ、自分がトリトンだと宣言します。
 そしてトリトン族は永遠に海のどこかでひっそりと暮らしているのだ、というカットで終わります。
 「海が永遠なように彼らも永遠なのです」。